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欧州の深化と拡大が同時に実現したのは、パリ・ボン(ベルリン)枢軸が揺るがなかったからである。
とりわけ経済大国ドイツの自制と代償が大きかった。
マルクの放棄で、高い信頼を得ていたドイツ連銀は地盤沈下した。
不祥事で失脚したW総裁の部屋にユーロ流通前夜にかかっていた「一マルク硬貨」の絵を思い出す。
「経済先行」も成功の要因だろう。
MがH案を書いたシューマン・プランは経済統合への出発点になった。
互いに改革を競い合ったことが欧州経済をよみがえらせ、政治、外交統合への道を第二次世界大戦の欧州戦終戦から五年後。
一九五○年五月九日は歴史的な日である。
「欧州が団結するには、数世紀にわたる仏独の敵対関係を解消しなければならない」とS仏外相は石炭鉄鋼共同体の創設を提案した。
この構想にA西独首相は即座に応じる。
欧州統合はこの日、第一歩を踏み出す。
東アジアのもつ多様性も強みになる。
EUが「文明共同体」なのに対して東アジアは多様な文化が入り交じる。
それを生かせば、新たな活力の源泉になる。
大事なのは理念と実践をどうかみ合わせるかだ。
「人間だけが思想を生み出せる。
だが制度によってのみ思想は永続する」とMは考える。
どんな見事な構想も実践がなければ、むなしい。
構想を担保する枠組みこそ必要だ。
協定、条約、そして、できれば機構を設ける。
EUが一歩ずつ大欧州に向かえたのはユーロクラート批判はあるにせよ「ブリュッセル」という拠点があったためでもある。
東アジアには計り知れない可能性がある。
覇権主義を避け、多様性を生かせば、モネの夢は東アジアでも実るかもしれない。
アジアは欧州に学べるか第二次大戦中から親交のあったN紙のJ記者は「RからKまで歴代の米大統領に影響を及ぼした人物」とみる。
「何かになりたいのでなく何かを成し遂げるタイプだ。
みせかけや野蛮を嫌った」と書く。
Mが欧州融和と対米協調の二兎を追えたのはマーシャル・プラン(欧州復興計画)以来、欧州統合がソ連封じ込めという米国の冷戦戦略に沿っていたからでもある。
それにしても、EUがここまで深化と拡大を遂げるとだれが予想したか。
欧州統合を貫くのはドイツの譲歩とフランスの自制である。
バランサーとしてのベネルクス三カ国、制御役としての英国の存在は重要だし、ブリュッセル(EU本部)の実務能力も見逃せなりした。
この仏独連携こそ、冷戦から冷戦後を通じて欧州の平和の礎になる。
翻ってアジアをみれば、六十年を経ても戦後は終わっていない。
日中関係は国交正常化後最悪の状態にある。
アジアの大国同士のきしみはグローバル経済を揺さぶり、世界を不安定にする。
日中はアジア連携で欧州の教訓に学ぶときである。
激動期にはそれにふさわしい人物が現れる。
シューマン・プランの原案を書いたフランス人、Jは日本の幕末でいえば坂本竜馬のような存在だった。
エリート主義のフランスには珍しく学歴もない一介のコニャック商人が「欧州統合の父」と呼ばれるようになるのは、世界的視野で欧州の将来を見据えていたからだろう。
仏独融和に奔走しただけでなく対米関係にも気配いが、土台にあるのは仏独首脳の連携である。
とりわけ冷戦終結を受け仏独は主権を超えた連携に動く。
東西ドイツ統一の見返りにC独首相はT仏大統領の要求を入れ最強通貨マルクを捨ててユーロ創設を決断する。
アジアは欧州統合から何を学ぶか。
もちろん欧州とは単純には比べられない。
アジアは発展段階に大きな差があるし、文化や宗教も多様だ。
しかし発展段階の違いはかえって経済統合を促し、文化の多様性は活力を生む源泉になる。
決定的に違うのは、仏独首脳はいつでも話し合えるのに対して日中はまともに首脳会談も開けない点である。
中国政府は暴力的な反日デモを放置して国際信認を損なった。
暴力的デモの封じ込めに懸命だが、反日教育が背景にあるだけに、予断を許さない。
一方で「東アジア共同体」構想を唱えながごうしら、K首相がA級戦犯を合記した靖国神社に参拝して近隣諸国をいたずらに刺激するのは国際感覚を欠く。
一九七○年、プラント西独首相はワルシャワのユダヤ人強制居住区の記念碑の前でひざまずいた。
ドイツの戦後処理が徹底していなかったら欧州統合への道は閉ざされていたはずだ。
過去にさかのぼり偏狭なナショナリズムの応酬を繰り返すのは避けなければならない。
将来に向けて共通目標を掲げることこそ、欧州に学ぶべき点である。
こんなときこそ、経済先行で地道な協力を積み重ねることだ。
「東アジアでは貿易、投資など民間主導でデファクト(事実上)の経済統合ができている」重要なのは人の交流だ。
仏独は十万人規模で若者の交流に取り組んだ。
歴史認識の誤解を解く道だ。
「国と国を結びつけるのではなく人と人を結びつける」とJも述べる。
アジア連携に米国には警戒感もある。
東アジア・サミットはASEANプラス3(日中韓)プラス3(オーストラリア、ニュージーランド、インド)の構成になるが、できるだけ開かれた連携をめざすときである。
開かれたアジア連携はグローバル経済を発展させ、世界の安定につながる。
それは米国の利益教授は提案する。
これはアジア版ユーロではない。
欧州でいえば、欧州通貨制度(EMS)の欧州通貨単位(ECU)にあたる。
通貨調整の協調で「アンカー通貨はEMSがマルクだったように、円になる」(K氏)。
ACU創設の前提はドルにリンクした中国人民元改革である。
未来に向けた共同プロジェクトも大事だ。
「仏独がザール、アルザス・ロレーヌの石炭鉄鋼を共同管理したように、日中は東シナ海ガス田の共同開発に取り組んではどうか」とTは言う。
FTAの締結を急ぐ番だ。
通貨協調も現実的課題だ。
米国の経常収支赤字が膨らむなかでドルの下落は避けられない。
アジア通貨危機の二の舞いを防ぐためK経済産業研究所長らの識者グループはアジア通貨のバスケットによる「アジア通貨単位(ACUこの創設を年末の東アジア・サミットに向け提案するのは事実だ。
アジアは欧州に学べるか修復への模索は続いている。
しかし日本と中国との関係は冷えきったままだ。
日中冷却の引き金は歴史認識をめぐるズレである。
その決定的な要因がK首相の靖国神社参拝であるの中国の急速な台頭に目を奪われてきた米国の識者も、かくも長き日中冷却を憂慮し始めている。
東アジア共同体構想で米国がはずされるのも困るが、日中という二つのパワーのにらみ合いで成長地域であるアジアの安定が損なわれるのも困る。
ポストKで日本外交はどう変わるか。
それによってアジアの将来も決まる。
米識者の視線はいまそこに注がれている。
「首相の靖国神社参拝は日本のソフトパワーを傷つける」。
H大のJ教授(元米国防次官補)はこう言いきった。
「米国人の感情を深く害するわけではないが、中国人や韓国人には、一九三○年代の困難な時代を思い起こさせる。
日本の大衆文化に引きつけられ日本に好意をもつ若者たちの心も三○年代に戻ってしまう。
首相が国内の政治的事情から靖国参拝を決めること自体が自らのソフトパワーをそぐことになる」。
アジアにいまJがいたら、米国の指導者にこう説いたはずである。
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